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(2008. 8. 19号)
消費者保護は流通促進が前提
 
  「ひと」欄に不動産行政の新しい顔、海堀不動産課長が紹介されていました。
消費者保護の要請が高まるなか、来年度から消費者が当事者となる不動産取引は消費者庁との共菅となりますが、海堀課長は「過度に業者の責任だけを重くしていったら流通がむしろ止まってしまう」と指摘し、さらに、売手、買手、仲介業者のどれか1つだけに責任を負わせすぎることに警戒感を抱いている、と記事は続けます。

 全く同感です。仲介業者は一般に、売主と買主との間でバランスのとれた約定内容とすべく、当事者に発生する権利・義務関係を調整することが期待されているはずです。ところが、売買当事者の個人的な事情が、これを難しくする場合があります。
たとえば、中古住宅の売買。売主には、どんな理由であれ所有する自宅を現金化したいという、特別な事情があるはずです。家族の成長に合わせマイホームを買換えたいという事情もあれば、中には勤務先の移転により売却などという事情もあるでしょう。しかし最近では、資金繰りの事情から自宅を手放すケースが一番多いように思われます。

 この場合、問題になるのが売主の負担する瑕疵担保責任の設定期間です。売主は基本的に資金的余裕がなく、瑕疵担保責任を問われても対応することが実質的に困難なため、買主である消費者を保護する必要性とのバランスを考えると、着地点の見極めに頭を悩ませることになります。当事者の一方に過度な責任を負わせると取引の公正性や円滑性が損なわれるため、非常に気をつかいます。
 ここで必要とされるのが、仲介業者の調査能力と説明能力のはずです。しかし、同日付の「大言小語」にもあるように、ここ数年、宅地建物取引業者に課される責任は増すばかりで、既に負担は限界近くまできているのではないかとさえ思われます。
 したがって今後、消費者保護と流通促進の両者を進めていくためには、物件の物理的状況の調査について、米国のようなインスペクション(物件調査)制度の導入が必要なのかもしれません。

 米国の不動産売買では、物件調査費用の大部分を買主が負担します。インスペクターと呼ばれる専門家が、物件の構造部分はもちろん設備部分の故障箇所や修理の可否などの調査を行い、報告書を作成するのが通例になっています。
 日本では、物件調査は宅建業者が事前に完了しておくべきことですが、重要事項説明や契約書に記載する内容以外の事項については、売主の告知書等にゆだねている部分も多く、おのずと限界があるのが実情です。
 このような状況では、物件調査の水準が買主の要求レベルに達していないのは明らかで、何らかの形で改善する必要があると思われます。これを解決しうるのがインスペクション制度であり、既に制度が定着している米国では、中古住宅の売買でも広く利用されているようです。

 もちろん、日本と米国では不動産取引のすべてが異なりますから、インスペクション制度の導入に当たっては、商慣行も含めた取引全体について見直していく必要があるでしょう。しかし、一部の金融機関等では、中古住宅の購入に際して「不動産インスペクション」を勧めるところも出てきています。何かきっかけで、一気に開花していく制度かもしれません。


高橋満

高橋住宅センター株式会社常務取締役。マンション管理士 CFP
宅地建物取引主任者法定登録講習講師、法定実務講習講師等を歴任
神奈川県不動産コンサルティング協議会事業開発研究委員
『住宅ローンのことがわかる事典』(西東社)、『FP技能士2級攻略問題集』
(TFP出版)等 編集・執筆協力多数
http://www.tjc.jp